システム構築 – SI開発と内製開発のメリット・デメリット

企業で何らかのシステムを構築する場合、その手段には大きく分けて、SI開発と内製開発の2種類があります。

SI開発とは、システム構築を専門とする企業に外注する方式です。
主要なSI企業としては、NTTデータ、IBM、日立製作所などがあります。

内製開発は、自社内でエンジニアを抱えて、この要員でシステム構築を行う方式です。

ここ数年、世の中ではDX推進の流れが強く、広範の企業においてエンジニアリングの需要が高まっています。
この記事では、システム構築する企業目線での、SI企業と内製開発それぞれのメリット・デメリットを述べます。
そのうえで、今後どのような戦略でDXを勧めていくのが良いのかまとめます。

目次

日本で SI企業が多い理由

メリット・デメリットの前に、SI開発について日本のバックグラウンドの話をします。

欧米と日本とではIT開発の構造が大きく異なっています。
欧米では内製開発が主流であるのに対し、日本ではSI開発が多く行われています。

これにはいくつかの要因がありますが、最も大きいものは日本の雇用制度にあります。
次のような我が国独自の制度から、日本では雇用の流動性が低い現状があります。

  • 年功序列型の賃金
  • 解雇規制が厳しい
  • 退職金(長く勤続するほど税が優遇される)

雇用の流動性が低いことから、非IT企業としてはエンジニアの雇用が難しいところがあります。
そうすると、企業としてはSI企業に開発を発注せざるを得なくなります。

雇用の低流動性は、ここからさらに業務の属人化を引き起こす要因にもなります。
これにより、SI企業への依存がさらに高まります。

また、専門性が高い企業へ発注することにより、開発や運用全般がSI企業へ丸投げされがちな状況も起こります。
これは非IT企業におけるITリテラシーが停滞する原因でもあり、これもSI企業依存の要因となります。

SI開発のメリット・デメリット

内製開発に対するSI開発のメリット・デメリットをまとめます。
なお、内製開発のメリット・デメリットはこれを反転させたものですので割愛します。

SI開発のメリット

雇用の低流動性を緩和できる

SI開発の最大のメリットは、雇用の低流動性を緩和できることです。

前述のとおり、日本では雇用の流動性が低いことから、人員の調達難易度が高い背景があります。
また、一度人材を雇用すると、解雇に高いハードルがある問題があります。

SI企業に開発を発注することで、上記の問題を次のように緩和することができます。

  • 必要なITスキルの技術者の調達をIT企業に一任できる
  • 契約によって人材リソースの増減をコントロールすることができる

SI開発のデメリット

システム構築の目的意識が異なる

SI開発の一番のデメリットは、発注側企業と被発注側企業(SI企業)とで、システム構築の目的意識が異なる点です。

発注側としては、おおよそ次のような ToBe 像をシステムに求めることが多いと思われます。

  • 業務とシステムを総合して全体最適化したい
  • 長期的に効率よく運用していきたい
  • 無駄なものを作らず、必要なところにコストをかけたい

しかし一方で、これらの項目は SI企業にとってのメリットにはなりません。
SI企業として重要なことは、システム構築に係る売り上げを最大化することです。
また、決められた契約に基づいて、如何にリスクを排除してプロジェクトを遂行するかということです。
発注側企業の要望を優先することは、SI企業側の売上を下げる方向性に力が働きます。

SI企業としては、無駄なモノをたくさん作る方が企業メリットがあります。
効率悪く運用する方が、人月稼働の売上を高めることができます。
システムをより良いものにすることよりも、プロジェクトリスクを極小化することに管理が優先されます。

もちろん、SI企業同士で一定の競争が発生しますので、極端にひどい状況になることはありません。
しかし、根本的に目的の不一致があることから、理想とはかけ離れたシステムが作られてしまうことが多々あります。

コストが相対的に大きくなる

目的の不一致問題に派生するものですが、SI開発ではコストが相対的に大きくなりがちです。

まず、企業間の契約が必要であることから、見積もりのために事前に過剰な計画検討が必要になります。
少なくとも企業内での企画稟議よりは過剰なコストが必要になります。

しかも、システム構築は机上での検討難易度があまりにも高く、事前検討の細部についてはだいたい無駄になります。
にも関わらず、発注側は必要な機能を確実に作らせるため、被発注側は責任範囲を明確にするため、無駄な事前検討に大きなコストをお互いに要することが必要になります。
さらに、契約前には見えなかった問題が顕在化するたびに、これに係る大きな管理コストを浪費していくことになります。

この問題を軽減するために、アジャイル開発等の方式がありますが、結局は本質的に企業間の契約という根本問題があります。
内製開発と対比すると、どうしてもコストは大きく膨れがちなものになります。

また、SI企業側の売上を大きくしたい思惑も絡んできます。
顕著なものとしては、低スキル人材を優秀な人材とセットで提案されることが多々あります。
これによって非効率的な人材コストが発生します。
さらに、プロジェクト管理者としても、低スキル人材を如何に効率的に稼働させるかという課題にコストを割かざるを得なくなります。

自社の人材が成長しづらい

システムの構築を外部に委託することにより、発注側企業の人材が成長しづらいデメリットがあります。

現在のDX推進が必要な時代では、ITリテラシーを持つ人材はとても重要です。
しかし、ITはそうそう簡単なものでもなく、深く関わらないと身に付きづらいものです。

企業が成長するために、人材の成長は必要不可欠なものです。
企業内でIT人材が成長できないことは、長期的に見てとても大きなデメリットです。

SI開発と内製開発の使い分け

企業は内製開発に少しずつシフトしていくべき

前述のとおり、SI開発では、雇用の流動性問題を緩和できる反面、企業の成長には多くのデメリットを抱える面があります。
個人的には、日本がこれまで成長が阻害されていたのは、IT企業が多数存在していたこと、もっと言うと、雇用の流動性が低いことに根本的な原因があるように思います。

これから先、SI開発ばかりに依存し続けるのは、長期的な企業の成長にリスクが大きいです。
エンジニアの需要がなくなることはありませんので、まずは自社で小規模ながらでも内製開発の体制を整えていくことが重要です。
既に内製開発の体制がある場合は、適切な規模でこれを成長させ続けるのが良いでしょう。

もちろん、SIに既に大きく依存している場合、突然、これを全て内製開発に切り替えるのはリスクが大きいので推奨しません。
小規模で独立したスコープからスモールスタートするのが良いです。
特に、企業内のスタートアップのように、独立性があり、柔軟性が求められるようなものが適していると思います。

日本全体として、雇用の流動性が増加することが見込まれる

日本の動向という観点でも、雇用の流動性は高くなる方向に圧力が働いています。

例えば、退職金の控除については、長期勤続の優遇を廃止する法案が出始めています。
ジョブ型雇用についても政府がガイドラインを検討しており、スキルやジョブに応じた賃金の上げ下げや、雇用や解雇の基準など、より流動的な雇用制度を定義しようとしています。
各企業においても、ジョブ型雇用を採用し始めるなど、大きく変革しつつある状況が見えます。

このような背景を踏まえると、SI開発のメリットがより薄れていく可能性が高いです。
今後の企業間競争に勝っていくためにも、内製開発を育てることが重要です。

SI企業としては

SI企業としては、今後の需要に懸念があります。
とはいえ、しばらくの間は一定の需要は残り続けるとは思います。

例えば、古臭い体質から脱却できない企業については、SI開発の依存が継続的に必要になるでしょう。
また、ハイスキルなSE人材を抱える企業として、SIコンサルとしての需要が継続するかと思います。

しかし、少なくともSI開発そのもののマーケットは縮小していくことが予想されます。
さらに、人材派遣業に留まってしまい、魅力を創出できていないSI企業からは、人材が流出することも想定されます。

SI企業としても、現在の収益にあぐらをかかず、長期的な視野でのビジネス創出が求められます。


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