SIer – 人月ビジネスはなぜ限界か – 知っておくべきキーワード

わたしは普段、サラリーマンとして社会の歯車を担っています。
世の中には多様な企業がありますが、SIer と分類される会社で犬をしています。

SIer とは System Integration + er を略した和製英語で、顧客企業の情報システムを構築する人たち、という雰囲気の意味です。
例えば、「あなたの会社の勤怠入力システムを作ります」とかそんな感じの仕事です。

こういった仕事は、人月ビジネスと呼ばれたりもしますが、近年限界を迎えようとしていると言われています。
なぜ限界を迎えようとしているのか、今後 SIer が生きていくためにどうするべきかまとめます。

目次

日本経済の背景

まず、ベースラインとして世界と比較して日本経済が位置づけにあるか、ということを解説します。

インフレ率が低い

インフレ率とは、毎年の物価の上昇率を表します。
一般的には消費者物価指数(CPI)で計測されますが、ビッグマックの値段で計測される(ビッグマック指数)こともあります。
米国や中国などの近年発展している国(2%前後)と比較して、日本のインフレ率(0~1%程度)は低い状況にあります。

つまりどういうことか。
この状態が定常化している日本では、商品価格の上昇は消費者にとって極めて受け入れづらい、という文化ができているのです。
たとえ原価が上がったとしても、たとえ商品の付加価値が上がったとしても、です。

終身雇用&年功序列

米国と日本を比べた場合に、終身雇用が日本特有の話というのは有名かと思います。

終身雇用というのは、大正時代~昭和時代の頃に熟練工を長く留まらせるために生まれた日本独自の文化です。
定期昇給や退職金といった、これまた日本独自の制度で、個人の能力や実績よりも勤続年数が最も評価されるという仕組みによって構成された文化です。

余談ですが、企業ごとに労働組合が存在するというのも日本独自の文化です。
海外では産業別労働組合と言って、産業種別ごとに横断的な組合が存在するようです。

少子高齢化

これも現代日本の特徴として有名な問題ですね。
既に日本の人口は減少傾向にあり、高齢者の比率はどんどん増えていっています。

今後はどうなっていくか

日本全体として

以上をまとめると、日本は年功序列で高齢化が進んでいます。
つまり商品を作るための原価が増えます。

年功序列で評価された人間が、自分の単価以上の価値を創造することができるでしょうか?
これは人によるとは思いますが、平均的にはできないと思います。

原価が増えてしまうのであれば、利益を確保するために、商品の価格を上げなければなりません。
しかしここに新たな価値は付与されていません。
こんな商品を、値上がりダメ絶対!の日本人は買ってくれますでしょうか?
これでも成り立つ商品はタバコくらいです。

つまり、価格は変わらず原価が上がるので、利益を下げざるを得ません。

SIer では

SIer のビジネス、いわゆる人月ビジネスの流れは次のようになります。

  • 顧客のやりたいこと(要件)を教えてもらう
  • 要件を実現するためのシステムを構想する
  • システムを構築するための作業量(人月)に単価を掛けて、価格を計算する
  • 顧客の使用価値 > システムの価格 であれば SI の契約をしてプロジェクトがスタートする

つまり、原価は 100% 人件費なのです。

ソフトウェアライセンスやハードウェアの販売などもあるので、100% は語弊があります。
しかし、近年ではプラットフォームビジネスのシェア拡大が急速に進んでおり、今後という考えで行くと 100% 人件費というのはあながち間違いではないでしょう。

原価が 100% 人件費ということはどういうことか。
低インフレ、年功序列、高齢化の3段コンボがすべてクリーンヒットします。

SIer の顧客目線で書くと、こんな感じです。

  • やりたいことを SIer に伝える
  • 思ったよりも高い金額を提示される
  • かといって SIer も実は利益が苦しい

Win-Win ではないですね。Lose-Lose です。
これから先の人月ビジネスは、売る人も買う人も敗者なのです。

脱・人月ビジネスをどう実現するか

というわけで、SIer は脱人月ビジネスを考えていかないといけないわけです。
このうえで、いくつか心に刻み込んでおくべきキーワードを3つ紹介します。

  • ストック型ビジネス
  • サービス・ドミナント・ロジック(価値共創)
  • サステナビリティ(持続可能性)

ストック型ビジネス

SIer の御用聞き&人月ビジネスは、フロー型ビジネスと呼ばれます。
フロー型ビジネスとは、モノを作って売ることにより収益を上げるビジネス構造です。
旧来からの典型的なビジネス構造ですね。

この対義語がストック型ビジネスです。
サービスを提供するための仕組みを構築し、この利用料によって収益を上げるビジネス構造です。
いわゆる定額サービスやサブスクリプションなどといったものに該当します。

ストック型ビジネスの具体例は、次のようなものがあります。

  • アパートやマンションの賃貸
  • 携帯電話の利用料金
  • Microsoft Office365 のサブスクリプションサービス
  • Youtuber やブロガーの広告収入

これまでの説明の通り、フロー型は日本経済の背景による打撃を受けやすい構造になっています。
人月による原価が、売上金額の上限に直結します。
みんなが超忙しい、という状況ではそれ以上の売上を出すことができません。

これに対し、ストック型では、人月の稼働と売上金額が直接リンクしないという特性があります。
売上発生のタイミングで、サービスの提供側が何かをめっちゃ頑張るということは不要になるのです。
逆に言うと、いかに顧客主体で売上を立てられるかどうか、というところが考えるべき重要なポイントになります。

一方でストック型のデメリットとして、即金性が小さいところがあります。
投資に近い考え方ですね。
長期的に育てていって、初めてビジネスとして成り立ちます。

サービス・ドミナント・ロジック(価値共創)

これもまず対義語を紹介します。
グッズ・ドミナント・ロジックです。
マーケティングにおける価値の評価軸を表します。

顧客がモノやサービスを使用するときの価値を考えてマーケティングするのが、グッズ・ドミナント・ロジックです。
ラーメンを作ってこれを売る、
家を作ってこれを売る、
英語を教えてお金をもらう、
講演会で講演してギャラをもらう、
これらのビジネスモデルの考え方はすべてグッズ・ドミナント・ロジックです。

これに対して、顧客の使用価値そのものだけではなく、顧客がモノやサービスを使用することによってさらに生まれる価値まで考えてマーケティングするのが、サービス・ドミナント・ロジックと言います。
売り手と顧客が一緒に価値を作るんだ、という意味で価値共創とも言ったりします。

限られた人月で作り手が生み出す価値には限界があります。
よって、これからは顧客も巻き込んで新たな価値を生み出していく必要があるのです。

イメージしづらいと思うので、いくつか例を紹介します。

例)マインクラフト

例えば、サンドボックスゲームのマインクラフトなんかは価値共創の例に当てはまるかと思います。
マインクラフト単体では、購入者(使用者)が、サバイバルや土地整理、建築などといった仮想体験をすることができる、という価値を持つ商品です。
ところが顧客の使用によって、多様な人の独創性により、ブロックでの二次元アートや、実在都市の再現、未来都市の創造、といった副次的なヴィジュアルコンテンツが生まれるようになりました。

こうして、マインクラフトは、ヴィジュアルコンテンツを創るツールとしても認知され、顧客の使用によってさらに売上を上げることができている例になります。

例)Youtube

Youtube なんかも価値共創をしているサービスの例です。

Youtube は、一般消費者が無償で動画公開できるようにしたサービスです。
そして一般消費者が無償で公開した動画を、別の一般消費者が無償で視聴できるサービスです。
これだけ聞いたら、無償だらけのただのゴミプラットフォームです。

ところが、これを多数の一般消費者が利用することによって、巨大な広告プラットフォームになりました。
さらには Youtuber という職業まで生み出すにまで至っています。

価値ゼロのプラットフォームが、消費者の使用によって莫大な価値を生み出すことになった、という価値共創の教科書みたいな例です。

サブステナビリティ(持続可能性)

この単語は、人月ビジネスに直接結びつくわけではありません。
しかし世界的なビジネスの方向性として、中心的なキーワードになっていますので、心に刻んでおくべき単語です。

直接的には、世界的な環境問題からくる脱炭素化と結びつくキーワードになります。
脱炭素化することで、今後も継続的に(サステナブルに)社会貢献できる企業になる、みたいな文脈です。

環境面が発端ではありますが、国連がリストを定義しており、雇用や安全、コンプライアンス、パフォーマンスなど、多様な観点での継続性が求められる時代になっています。
「サステナブル」とか「継続的に」とか、とりあえず言っておけばそれっぽくなるので、心に刻んでおきましょう。

企業の目的はなんでしょうか?
「利益をあげること」でしょうか?

50点です。
正解は「継続的に利益をあげること」です。
間違えました。「サステナブルに利益をあげること」です。

今後、SIer はどうしたらいいのか

ではこのような経済を背景として、SIer はどのように動いていくべきなのでしょうか。

まずは、5年後10年後にストック型ビジネスができるように組織のポートフォリオを決めるべきです。
そして、ストック型の効果を高めるためにセールスではなくマーケティングに力を入れることが必要です。

とはいえ、詳細は企業や組織によってケースバイケース甚だしいと思いますので、抽象的にふわっと書きます。

ストック型ビジネスを見据えたポートフォリオ

将来的には、フロー型ビジネスを縮小し、ストック型ビジネスを拡大させるべき、というところは間違いありません。
しかし、ストック型は成果が出づらいデメリットがありますので、フロー型(人月ビジネス)を今すぐゼロにするという選択肢はそれはそれでありません。

まずは組織として、フロー型とストック型の比率計画を決めるべきです。
投資でのポートフォリオ構成と同じで、取りたいリスクの大きさに合わせてストック型を大きく構成する形かと思います。

マーケティングの構築

ストック型のサービスを生み出すことができたとしても、これが売れなければ意味がありません。

ではどうするのでしょうか。
営業ががんばって売りに行くのでしょうか。

ダメです。
せっかく商品をストック型にしたところで、セールスが人月ビジネスになっては意味がありません。
マーケティングを構築することが必要です。

わたしは読んでないですがドラッカーの名言によると、「マーケティングとは、セールスとは逆の意味であり、モノやサービスが自然に売れる仕組みを構築することである」みたいな雰囲気らしいです。
言葉の意味がとてもしっくりきます。

これからはサービスの売り方もストック型風にしなければいけません。
セールスでは人月の限界がきます。マーケティングするのです。

具体的にはどのような方向性でマーケティングを考えたらよいのでしょうか。

マーケットのグローバル化

日本はこれから経済が衰退する可能性が高いため、マーケットの拡大が必要です。
日本に閉じずに、世界をマーケットとして捉える必要があります。

英語できないのでわたしは嫌ですが!!

SNS の活用

自然に売れる仕組みを構築するにしても、まずは集客できないと話になりません。
集客ができなければ結局はセールス頼りになります。

現代社会では、無料で自分のマーケットを構築できるプラットフォームが存在します。
SNS です。
Youtube, Facebook, Twitter, Instagram, LinkdIn といった、効果的な SNS が多数あります。
お金を出せば、より効果的なマーケティングも可能です。

これを利用しないことは機会損失です。
かつ、SNS のマーケティングも効果がでるまで時間がかかりますので、早い段階で活用していくべきです。

まとめ

SIer が直面している現状と、これからどうしていくべきかをまとめました。
この記事を読むターゲットをあまり考えずに書いてしまいましたが、どこかの誰かの参考になれば幸いです。

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